星々の交流は音楽を奏でているかのようだ。宇宙といってよいであろうその空間は、
美しいハーモニーで満たされていた。
自分という存在があるのかないのかさえもわからない。真っ暗闇の中に輝く星の一つにでもなっているかのような感覚に驚くことさえもなく、ただ空間の中に漂っている。
そのような状況にあるのに、意識だけは妙にクリアだ。
自分が何者であり、どこから来て、どこに向かっているのか、冴え冴えとした理解が進む。
突然、星々のきらめきが消えた。
あたり一面が真の暗闇に変わり、すべての音が吸収されたかのように聞こえなくなった。
一条は、身構えた。
何者かがいる。どこからかはわからぬが、何者かがじっとこちらを見つめているのを感じたのだ。
その瞬間、いきなり宇宙は消え、元いた厩戸王の居室に佇んでいる自分に気付いた。
「危なかったですね。そなたは無防備に意識を広げすぎだ。忘れておられるかもしれぬが、そなたは、いづくかの時にか魔に触れておるゆえに、無防備が過ぎると、その存在を呼び寄せてしまいます。気をつけねばなりませんよ。
魔は、いつの時にも、隙を狙っておるのです。
事が成就することを恐れていますからね。
良いですか一条。決して忘れてはなりません。
どのような事が起ころうと、決して、対立だけはせぬように。対立し、相手を糾弾し、攻撃するようなことになってはなりません。
相手の望む土俵に引っ張り出されては、われらの為すべきことは果たせぬままに終わるでしょう。先方は、どのような手段を使ってでも、われらの為し事を邪魔だてするはずです。
最大の問題は、先方にはまるで禁忌がないことです。正義や道義が通らぬは当たり前ですが、彼らはどのような禁じ手でも使ってくるでしょう。
そして、彼らのシナリオにわれらを乗せようとするはずです。
対立させ争いへと持ち込まれた段階で、われらの負けです。彼らは、われわれの魂エネルギーを奪おうとしているのです。
そして、われらの存在を根絶やしにする算段でしょう。
もちろん、私には指一本触れることも出来ませんし、私の魂のエネルギーに触れれば、彼らはたちまちに消え去ってしまうでしょう。
ですから、彼らは私を狙いにはやってきません。あくまで、そなたたちに手を伸ばしてくるはずです。そして、あなた方、仲間内の中に問題を生ませ、争いへと導こうとするでしょう。
その罠にはまってはなりません。決して、対立はせぬように。賢さをもって万事が事にあたりなさい。」
すべての話を終え、厩戸王の居室から退出した時には、空は白々と明けていた。
山背大兄王は、一条光明としての己の感覚を取り戻していた。
もしかしたら曖昧な部分はあるのかもしれない。
だが、本人としては、すっかり記憶を取り戻したような気がしていた。
「先程まで、星々の瞬きの中にいたはずなのに、いつのまに、見慣れた道を歩いているものか…」
独り言ちながら、ふわふわと漂う感覚に身を任せる。それでも、肉体を持つこの身は、しっかりとした足取りで、一歩一歩と歩みを前に進めている。
「さて、私はこれからどのようにしたものか…?」
この地球の神々の成り立ち、永き時をかける神々の世界の抗争、人間存在のエネルギーを食い物にする存在、あえて対立を仕組む目に見えぬ存在たち、地球の神と宇宙に遍在する神々…
人として生きているだけでは知り得なかったことが、どんどんと押し寄せてくる。
ただ、山背にとって一番の恐怖は、
「私は、もう長くはこの世に留まりませんので」と、何度か言葉にされていたことだった。
それが厩戸王であれ、日美の神であれ、敬愛してやまぬ存在が、この世からいなくなるという現実がやってくるということに、心は大きく揺れてしまっていた。






