魂たちの物語〜地球に生まれて〜

地球に生まれし魂(ひと)としての物語を綴っていきます

其の十四

 

(時流)

時の流れは、磁場によって変わる。次元が違えば、そこに同じ時が流れようはずもない。

地球と日美の神の星では、比べようもないくらいに時の流れの速さが違う。

それは、青河龍王の場やうつしみの星の場でも似たようなものであるので、三国の者たちが、地球に降り立つまでに研鑽を重ねたり、肉体を選んでいる間に、地球ではすでに1000年、2000年という時が流れている。

彼らが地球に降り立った時代は6世紀後半、場所は大和の国(日本)であった。当時は、大和政権下で、蘇我氏物部氏など豪族の間で、それぞれが支持する皇子を大王にしようと争っていた。この争いを収束せんがため、厩戸皇子聖徳太子)は、亡き敏達天皇の后である額田部皇女(炊屋姫)を、女帝として即位するよう進言した。自らは推古天皇の摂政となり、国の政を正しく治めるため、天皇中心の政治を推進するべく憲法十七条を制定する。これは、国民だけにとどまらず、貴族や官僚に向けて道徳的な模範を示すための憲法である。働きを正しく評価するための冠位十二階の制定などを行った。

また、文化的に未熟である大和の国を発展させるべく、隋の国(中国)の教育、医療、建築などの文化を取り入れんと、遣隋使を送った。精力的に政治に関わってきた厩戸皇子は、厩戸王とも呼ばれるようになっていくが、次第に、政治の中心から離れていく。

当時、政権の中心は飛鳥(明日香村)であり、彼の生誕も飛鳥である。しかし、その飛鳥から20数キロ離れた未開の地「斑鳩」に、厩戸王は一族の暮らす場を作ったのだ。

その敷地の中に、八角形のお堂を創り、厩戸王はほとんどの時間を、夢殿の中で過ごすようになっていた。

 

(夢殿の中で)

厩戸王は、すでに、人の身の記憶とは別の魂の記憶を取り戻していた。

夢殿の中にいる間、厩戸王は日美の神に戻り、この地球にてやらねばならぬことを行っていたのだ。

うつしみの星の神より授かった移動装置により、人として存在している身であるにも関わらず、地球上はもちろん、高天原など地球とは別の空間へも自由に行き来することができた。また、人として生まれる前に、己自身で作った通信ルートを駆使し、遥か彼方にある自国に残した対の神、日見月と交信を続けていた。

「決して、良い状態ではありません。応凌も不動も、自らの命をすっかり忘れておるし、当然、魂の記憶する憶えてはおらぬ。」日美の神は語った。

「そうですか・・・。一条はどうしています?」

「あれは、私のそばにおりますから…。半分わかっているようで、半分わかっておらぬようです。ただ、己が何のためにここに居るのか、それは理解しているように思います。

自らに繋がった魔のことは思い出してはおらぬようですが、闇を祓うという言葉は、よく口にするのです。」

「照染は、一条とともにあるようですが、彼女はいかがでしょう?」

「彼女は、舂米という名で、山背(一条)の妻として、よくやってくれていますよ。

記憶は取り戻してはおらぬが、もともとの明るさが幸いしています。独りで考えこんでしまう山背には丁度よい。」

「照染は、こちらでも明るく華やかですからね。なんとも不思議なことですが、人となりしも、こちらの質を持ちてあるのでしょうか。」

「そのように感じますよ。それにしても、地球は不便でなりません。様々な神に支えていただき、協力していただいているからこそ、どうにかなっておりますが、やはり思っていた以上に、人になるということは難しいものです。」

「孤軍奮闘されていらっしゃるということですのね。」

「思い出せぬということが、これほどまでに大きな障害になるとは。予想していたよりも遥かに厳しいかもしれませんよ。」

「まあ、日美さまがそのような弱音を吐くなどと、考えられませぬ。」

「日見月…。そちらはいかがですか?私がいないことで、そなたに負担をかけておると思うが…」

「こんなにも離れているのは初めてのことですから、どのように過ごしていればよいものか…と、時に気もそぞろになりますが、やることが多いですから、どうにかなっております。源水様が、そちらにいらして以降、紀の神様も実の神様も、よくこちらにいらしてくださいます。春蕾は、常にそばにあり、支え続けてくださっていますし、晃実殿は、正殿にてよく働いてくださっておいでです。他の者たちも皆、日美様はじめ皆様がお戻りになる日を楽しみに、日々を精進しておりますので、ご心配には及びません。

そうそう、日美の神様のところの伽羅さんを、私の寝所にお呼びしてもよろしいですか?」

「神獣の伽羅を?よいが、あれはかなり大きいでしょう?」

「日美様、伽羅さんは、自ら小さくなる術をお持ちでいらっしゃいますよ。とても可愛らしいお姿で、ぬこの間に遊びにいらっしゃいました。私、とても仲良しになりましたの。

伽羅さんを私にお貸しくださいませ。」

「わかった。伽羅がよいなら、それでよかろう。そなたも寂しい思いをされていらっしゃるのでしょうから。」

「日美様は、お寂しくはございませんか?」

「ふふ。そなたが寂しいのなら、私も同じ思いを抱いていることくらい、そなたにはわかるであろうに。しかし、そのようなことは言ってはおられぬ。早く、一条にまつろう魔の正体を見つけて、それをはがさねばならぬ。地球は未だ未発達の星ですから、この星が真の調和なる場になるには、まだまだ時間がかかりますよ。私がどこまでできるかはわかりませんが、せめて、この星にも光の源なるエネルギーが繋がってくれればと思います。」

「承知しております。そのための準備は、こちらでも進めております。もう少し、お待ちくださいませ。」

「あいすまぬ。皆によろしく伝えてください。そして、日見月よ、われらは大丈夫だ。離れておっても、私は常にそなたと共に在る。忘れるな。」

「はい。わかっております。どのような時であっても、どんなに離れていても・・・。

必ず、お帰りくださいませ。それまで、われらの出来ることは精一杯やっておきます。」

日見月は、日美の神に誓った。

 

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