魂たちの物語〜地球に生まれて〜

地球に生まれし魂(ひと)としての物語を綴っていきます

其の四

(決心)

一条が、日美の神に呼び出されたのは、それから数刻経った夕景の空の時であった。

「さて、一条よ。地球に向かう前に、われらは一度、オオモノヌシノの神の地場に入り、地球に入る時期を図らねばならぬ。」

鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしている一条を横目に話を続ける。

「その間、青河龍王の領域に、腰を据えることになるゆえ、そなたも心しておくように。それで、そなたの他に、地球に参りたいと申す者はいるのですか?」

「え、いえ、まだ。あ、不動殿は共にと申してくださいました。」

「そなたがあれほどに強く進言したことです。あなたが先導して募わねばね。」

「は、はい。あの、日美様。地球へ向かうことをお許しいただけるのですか?」

日美の神は静かな笑みを湛えながら「何が起こるか、私とてわかりませんよ。それでも、そなたが行きたいと申すなら…の話です。」

「行きます!地球へ。かの星へ参り、必ず、あの黒きものを祓います。もとの青く清らかな星へと戻れるように。」

「そのために、何が必要であるか、そなたはわかっておりますか?」

「まだ断言はできません。けれど、あれが何者であるのか、なんのために地球に触手を広げているのか、高天原からのメッセージと見せられたビジョンの関連を調べねばなりません。私はまだ、地球のことは何一つ知らない。ですので、今から、出来得る限りの情報を集めます。そして、一つ一つ検証し、それらが事実であるならば、一つ一つ対処法を編み出していきたいと思います。日美様方は、すでにお調べになっていらっしゃるのでしょう。私が行きたいと申したならば、それらはすべて私がやらねばならぬことでした。感情というものに呑まれてしまった一条があさはかでした。お許しください。即刻、動きます。」

「そうですね。そうなさい。この旅は、相当に長くなるでしょうから、諸々、配慮も忘れずに。」

 

それからの一条の動きは速かった。元来、賢さと行動力は長けている。自身の持ちうるネットワークを駆使し、地球と高天原の詳細で情報を集積、データ化したものを基にして、地球星への調査探索隊の仲間を募った。

一条(いちじょう)の他、不動(ふどう)、照染(しょうせん)、応凌(おうりょう)…計7名が名乗りをあげた。まだ若き魂人たちである。

 

彼らだけを地球に向かわせるわけにはいかないので、日美の神の同行が決まっているが、さすがに神の名を持つ方を送り出すのに、お付きの者がおらぬわけにはいかぬと、周りの者たちが騒ぎ立て、賢者の星の源水の妹背となられた媛をはじめ、数名を配し総勢18名のチームが出来上がった。

 

一条は、この課題を終えたら、双子のように育ってきた慈明と、新たな場に赴き、その星を司る役を仰せつかっている。

神とは、そもそも、何もないところから新たに生み出すことのできるエネルギーを持つ者である。0からすべてを創りだす作用を持つと言い換えるとわかりやすいだろうか。

神の質を持つ者は、初めから神として生み出される。それは単なる役割である。

神と言っても、様々な質があり、同系統の新しい魂という「子」を生み出す存在もあれば、地球上でいうところの動物のような存在を生み出す神、植物を生み出す神など、さまざまである。また、神々の世界は常に美しい音やかぐわしい香りで満たされているが、それも、その星の神によって創り出されている光である。

「子」生みに関しては、二つ神で子の魂を創り出す場合と、一つ神で子を創り出す場合とでは創り方が違う。また、神として生み出されても、すぐに神になるわけでもなく、稚児から青年期を経て、時期が来て、統べる星が用意されると、新たな星に向かい、神として立つのである。

ところによれば、同じ星にて、神の代替わりが行われるところもあるという。

三国に近いあたりでは、永く長い時を経て旧き星が消滅する頃になると、新しい星が誕生し、そこに新たな神を立てることになっている。

次は、一条と慈明がその任に就くことになる予定だが、もちろん、本人の意思が尊重されるため、無理強いされることは一切ない。

 

魂の世界というものは、神という存在が誰にとっても近しく、慕わしい存在である。

神の姿を目にすれば、それだけで心が弾む。

自身のすべてが清らかになり、力がみなぎり、 どのようなことでもできる気がする。自身を生み出し、力を与え続けてくれる神のために、神の意志とともに、われも在りたいと思うのが普通である。

また、誰しも、自身の祖神への尊敬と感謝の念が当たり前に強くあり、自らの神こそが一番素晴らしいと思っている。そうは言っても、比較をする心があるわけではないので、そこに対立や分断は起こり得ない。たとえ、別の星同士の者たちが、それぞれの神自慢をしたとして、互いに「そうなのか~」と思うだけである。「とは言っても、私にとっては、わが神が一番」と、それぞれが思うにとどまるので、常に会話も平和的である。

互いの価値観を侵害しない。相手の思いや考えを尊重する。けれど、自身の思いも大切にする。それが当然の世界である。

 

話を戻すと、一条はこの課題を終えた後、慈明とともに、新たな星に行くことを望んでいたし、

彼にとって、彼女の存在は、日美の神、日見の神に抱く思いとはまったく別の、特別な愛に満ちていた。愛しい、可愛い、すべてをかけて守りたい存在である。彼にとって、慈明は太陽の光そのものだった。

地球に行くことを決めた彼は、慈明のもとへ行き、事のすべてを話し、必ず戻ってくるから、帰ってきたらともに新たな星に行ってほしいと、自身の思いを告げた。

双子のように育ってきた彼らであるから、慈明の返事はすぐにOKかと思いきや、

「お戻りになるまでに答えを出しておきます。ですから、必ず、帰ってきてくださいね。」とのみ告げたのだ。思ったような返事がこなかったことを、少し残念に思ったが、

まだ若い彼女の心を思うと、そのような返事がくることも致し方ないと思う。

「慈明は、月さま(日見の神)のお傍付になったばかりだし、彼女は月さまのことをとても慕っておるゆえ、すぐに返答できないのは当然のことだ。それよりも私は、地球に行き、やるべきことをやって、必ず、慈明の元に戻ってくることだ。」そう自身に言い聞かせると、地球へ向かう準備のため、足早に自身の宮に戻っていった。

 

 

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