魂たちの物語〜地球に生まれて〜

地球に生まれし魂(ひと)としての物語を綴っていきます

其の五

(神事明け)

日見の神の神事が明ける。この神事が明けると、三国の場は、いつにも増して、清浄な気に満ち満ちて、光輝く。

常に、花や緑は栄えているが、この神事が明けると、花々や木々の緑は、一斉に色を変え、その年回りの色と光に包まれる。

「日見の神さまお戻りです。」奥の間にその声が響くと、静まりかえっていた奥の間は、神々しき神を迎える準備に心ときめかせる女御たちの華々しさでむせかえるようである。

しかし、この年は、少し違っていた。奥の間には、日美の神がすでに戻りを待っていたからだ。

日見の神は、奥の間の自室に入り驚いた。「日美さま。どうなされました?珍しきことがございますこと。」これだけ言って、日見の神の表情は、一気にこわばった。

何を伝えずとも、すべてが手に取るようにわかる。他の誰よりも、その心の内の機微

を分かり合えてしまう。けれど、どうしても言わずにはいられなかった。

「なぜ?こんな大事な話を、私の居ないところで決めてしまったの?納得がいきませぬ。

なぜ、そのような見知らぬ地へと、われらが神までもご一緒されるのか。」

言葉にせずとも伝わっている、そんなことはわかっているのに・・・。

納得できぬと言ったところで、状況が変わるわけでなし、ここは自分が受けとめるしかない。そんな日見の神の思いも、すべて日美の神には伝わっている。

日美の神は、「ここが一番難儀なところ」と語った紀の神のその言葉を思い浮かべながら、自身の思いを見つめていた。二つで一つということは、片方がいなくなれば、半身を奪われたかのような身の置き所のない感覚に陥るのだ。もちろん、神の身であれば、身悶えするほどの感情に流されることはない。それでも、神であったとして、悲しみは生まれるし、寂しさも募る。神や魂に感情がないのではない。その感情に呑まれたり、負の思いに捉われ、流されてしまうことがないだけだ。その感情はすべて自らの中で処理をする。

 

すべてを光のもと神理のもとに照らし、愛と慈しみへと変えていく、それが高次の神の本能である。裏切りや憎しみがこの地球にあるように、

実は、宇宙の中にあっても、このようなことは起こっている。そこに捉われるか、赦しへと向かえるか、それだけの違いである。

ようは、なにがあっても、そこに光を見出し、神理・法という光の源へと繋げていくことができるかどうかだ。神にもそれぞれ質がある。その役割があるように、それぞれの個性がある。日見の神の質は、絶対的な赦しと祈りである。

それこそが、奥にあって神事を司る者の役目となるに必要な役質である。この赦しこそ、『神という初めの光』が誕生してより、脈々と受け継がれている、唯一絶対の感覚であり、光の源なるエネルギーである。

 

日見の神が、こちらに残っておらねばならぬ。

日美の神はそう思っていた。

たぶん、地球に人として誕生するとなれば、

こちらの世界では思ってもみない出来事に遭遇する。

もしやすると、地球に向かう一行の中の誰かが、闇に囚われてしまうかもしれぬ。思わしくないことが起こるだろう。そのようなことが起こったとしても、何があっても赦しの中にあり、救い続ける手を差し伸べ続けるのは、奥に繋がる日見の神をおいて他にはおらぬ。万が一にも私が戻れぬことがあっても、その赦しの光、光の源なる力さえあれば、どうにでもなる。日美の神のその思いは、また、すぐに日見の神に届けられる。

納得をしないわけにはいかない。日見の神は深く長い息をつき、日美の神にまっすぐ向き直った。

「承知つかまつりました。では、日美さまのご算段をお聞かせくださいまし。」

「ありがとう、日見月。そなたに重責をかけることとなる。なれど、そなたにのみ、背負うていただくわけではない。長い神事のあと、暇もあたえず、このような話を告げにまいったこと申し訳なかった。だが、刻限が近づいておるため、急ぎでやらねばならぬことがある。それと、そなたと春蕾にのみ話しておかねばならぬことがある。お疲れのところ申し訳ないが、仕度を調え、正殿の日継の間へ参ってほしい。」それを伝えると、日美の神はすっと姿を消し、日見の神だけが残った。

 

正殿とは、政を行うための場であり、公の場として、星の内外より、様々な存在が行き交う場でもある。公の場に上る際、日見の神は、奥にいる時の姿とはまるで別の様相となる。この姿になると、日美の神と日見の神の区別がほとんどつかない。少し、日見の神の方が小さく華奢に見えるくらいだ。日見の神の髪色は、輝くようなプラチナの色に変化しており、長い髪は上の方でぎゅっと縛っている。奥の間で着ているやわらかな薄絹の薄桃色だのの美しく気品あふれるものとはまるで違う、動きやすい薄い黄緑色の袴のようなものを履いている。纏う気も、顔つきもまるで別人である。

 

日継の間には、先に、日美の神と春蕾の神が待っていた。春蕾の神もまた美しく聡明で名の通った神であり、日美の神と比べると、背の高さが際立って大きく見える。すべて白色を纏う春蕾の神は髪の色も純白で、常に、日美の神の隣に座っている純白の猫様の伽羅神と揃うと、圧巻の様を呈する。

「お待たせいたしました。」と告げ、日継の間に入ると、にこやかに春蕾の神が招きいれてくれた。「お久しぶりです。日見の神。ご神事明け早々に、お目にかかれますること、光栄にございます。お疲れではございませんか?」

「春蕾の神、ありがとうございます。私は大丈夫。此度のことで、春蕾光明にお力添えを賜るとのこと、感謝申し上げます。」

「さて、本題に入りたいのだが、私は、春蕾と日見のお二方に、どうしてもやっていただかねばならぬことがあり、こうしてお呼びつけした次第です。

今、地球という星に起こっていること。高天原に起こっていること。それは表面に浮かんでいる問題にすぎません。たぶん、この件は相当、厄介な話になっておるはず。われらが準備を調えている間に、青河龍王が地球に降り立ちて、調査をなさっておいでです。また、オオモノヌシノの神の話では、時空の歪みと次元の歪みが、その界隈で広がっているとのこと。地球上におられる神々で直接にコンタクトのとれる神が少なくなっており、その原因がよくわからぬとのこと。また、地球神の大神のお一方である富士の大神の波動が見えぬようになっているとのこと。この時空の歪み、次元の歪みについては、どこにどう起きるかわからず、万が一にも、われらが通るべき道が途絶えることもあるやもしれぬとのこと。あちらに行かねば、詳細がわからぬゆえ、こちらには常にあちらの情報を伝えるようにいたしますので、秘儀の間の奥にあるネットワークシステムを、常に注視しておくようお願いいたます。この星の政については、源水の神にお任せし、その補佐を晃実に依頼してあります。なれど、全権は日見の神、そなたにありますので、決め事に関しては、よくよく話し合って、決めてください。」

 

「承知つかまつりました。基本的に、ここの星は存在する当初より、すべて源水様が調えてくださったものですから、源水さまにお任せするのに異存はございません。また、晃実様がお手伝いくださるなら百人力でしょう。私は、日美さまのご意志に沿って、春蕾様とともに、事を遂行できるよう心しておきます。」

 

「日美さまのご推察が間違っておらぬなら…いえ、間違っているはずございますまい。そうなると、かなり問題は広範囲に渡っているのでしょうし、複雑に絡んでいるように感じられます。私は地球も人も知りません。今は、様々なネットワークより、数多くの情報が入ってまいりますが、真偽の程がわかりませぬ。日美様からの情報をお待ち申し上げ、何事も日見月様とお力を合わせて、事を進めてまいりますので、こちらのことはご案じなく。」最初の一手を打つ準備が、三名の神により進められた。