魂たちの物語〜地球に生まれて〜

地球に生まれし魂(ひと)としての物語を綴っていきます

其の十

(青き宝)

一方、第一陣がうつしみの星に移動して、肉体選びをしている間、青河龍王の星に残っていた一条たちは、地球にて何をすべきなのか、何をしたいのか、己の深きに向き合う時を持っていた。

ひたすらに己に向き合う姿は、他の誰よりも真剣であった。ともすると、いらぬ深みにまではまっていくのではないかと思わせるほどの集中力に、なんとも言えぬ危惧を感じとった青河龍王は一条に声を掛けた。

「一条。あまり根を詰めぬ方がよい。行ってみねばわからぬことも多い。どうだ。少し歩かぬか。そなたの星は、それはそれは美しい星だが、わが星には、そなたの星にはない美しさがある。繊細で清らかな日美の神と日見の神が創り上げた世界にはない、猛々しき美というものがあるのだ。供に参れ。」

青河龍王は、その様子を近くで見ていた日美の神に一瞥した。日美の神は、にこりと微笑んで「お願いします」とばかりに頭を下げた。

 

青河龍王と一条は、裏手の庭から表へと歩き出し、近くを流れる渓流に沿って歩を進めた。

「青いですね。」なんとはなしに口について出た言葉に、一条の物思いは、ふっと消え失せた。自分でも驚いたようだ。

「そうだ。この星はすべてが青い。青く若々しい気でみなぎっているのだ。それは、そなたの若い魂に必要なエネルギーだ。そなた、いつからか己の若きエネルギーをたぎらせるより前に、物思いにふける癖をつけておるであろう?」

「あ・・・」

「これが、わが星や、日美の星であれば、なんの問題にも発展はしないが、地球では違うことを憶えておいた方がいいぞ。そなたのそのたぎる思いは表に顕わしてこそ、一条の光として、すべての闇を祓うであろう。思いを内に込めていては、そなたは自らの思いで、己自身を喰いつぶしてしまうかもしれない。そなたの一条の光は、諸刃の刃だ。己にも、他者にも、道しるべとしての光を指し示すことができようが、思いの取り扱いを間違うれば、己も他者をも巻き込んで、焼き尽くしてしまうかもしれぬからな。」

一条は、青河龍王の語る言葉の意図が掴めず、「はあ。」とだけ返事をした。

気を取り直したように、青河龍王は、一条を連れて、渓流のさらなる奥地へと連れて行った。水の流れが見てとれなくなる場まで辿り着く。そこには小さな洞窟の入り口のような穴が開いていた。青河龍王は、小さくかがんで、こちらへおいでと一条を誘った。

「ここから入るのか?」驚いたようであるが、一条の顔はまるで子どものようにワクワクした表情に変わっていた。

「中へ。頭を気を付けてな。」

小さくかがんで中に入った途端に、一条は大きな声をあげた。

「うわあ~!すごい!真っ青だ!なんていう青だ!水も壁もすべて青く煌めいて輝いている!!」

「どうだ?」青河龍王は、自慢げに一言語った。

「すごいです!この青!見たことがない。あの青い地球の映像を見た時、あの星の美しさにも心を奪われましたが、ここの青はまた違う。そして、なんて広くて大きいんだ。あんな高いところまで、ずっとずっと青が続いている。」

「よし。もう少し奥まで行ってみよう。ついておいで。」

「はい!」嬉しくてたまらない様子で、青河龍王のあとをついていく。

ああ、この方は、どこか日美さまに似ていらっしゃる。自由でおおらかでいらっしゃるのに、実は細かなところまで目を光らせておいでなのだ。わたしのことも、真剣に考えてくださっている。そういえば、たしかにこのところの私は、ずっと地球のことに捉われ過ぎていて、己の光の使い途すら忘れていたように思う。

そんなことを思い巡らせていてのもつかの間、周りの美しさに見惚れて、一条はすっかりこの空間の青の虜となっていた。

青河龍王が立ち止まったところには、深い深い真っ青な泉があって、水面にきらきらとした光を漂わせ、ゆらゆらと揺れていた。あまりの深さゆえ、中は見えぬだろうと覗き込んだら、数十メートル先の泉底までが映し出され、そこには美しい紅色と思われる小さな花がたくさん咲いていた。

一条は思わず、手を伸ばし、その花を摘む仕草をした。あまりにも透明な水に、泉の底はすぐそばにあるかのように錯覚するのだ。

「美しかろう、一条よ。」

「はい。とても。なんと思わず手が出てしまいました。まるで稚児のように。」と、一条は、照れくさくなって笑い出した。青河龍王も笑った。

「ははは。よいのだ。己の心に素直にあることこそが大事なことだ。地球に行っても忘れるな。」

「はい。忘れぬように努めます。この美しき青と、そして、龍王様のお心遣いを決して忘れたりはいたしません。この青が私の心を素のままに戻してくれたようです。」

「よし。では、一条にこの青を差し上げよう。」そう言って、青河龍王は、水面の水を一掬いした。「手を貸しなさい。」と言われ、一条は両手を差し伸べた。そこに、掬った水を乗せると、その青い水は、青い宝石のような美しい雫となった。

これを常に身につけておくのだ。というても、地球では今のそなたの姿は使えぬけれどな。

「では、どのようにしたよろしいのでしょう?」一条はうた。

「そのままに。そなたが持っておれば、地球に生まれし人の中にも、この青き光や宿る。

そなたの珠の光とともにな。もし、万が一、地球にて困ったことがあれば、われは必ず、そなたを助けに参るゆえに、決して、この青き雫の珠だけは手放すなよ。」

「ありがたき幸せ。一条、決して青河龍王様のご厚意を忘れたりはいたしません。この青い雫の珠は、私の生涯の宝といたします。」

 

こうして一条は、大切な青き宝珠を一つ御胸に携えて、うつしみの星に向かうのだった。

 

 

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