魂たちの物語〜地球に生まれて〜

地球に生まれし魂(ひと)としての物語を綴っていきます

其の七

龍王の星)

一条たちは、青河龍王が開いた次元の扉をくぐり、見知らぬ空間を通り抜けて、青河龍王の統べる星へと辿り着いた。日美の星とも、紀の星とも、実の星とも違う、そのままの自然が生い茂る場である。自然豊かであるのは、自国の星々と同じであるが、こちらの星の自然はすべて青が添えられた緑をしている。水の色も大地の色も、木々の色も、すべてが青の色を含む。きらきらとした青い色の中に佇んでいると、水の中にいるような勘違いを起こしそうになる。

17名の一行は、手厚く迎えられ、客室へと案内された。これからしばらくの時をここで過ごすことになる。各室は、それぞれかなり広い。当初は、各自にそれぞれに用意されていた部屋であったが、あまりにも広いため、場を持て余してしまうので、2~3名ずつの部屋割りに変更された。一条は、不動と同室となり、夜毎日毎、各々の情報網を駆使して集めた宝のような知らせを、互いに共有しては、対策を練っていた。

話がどんどん盛り上がっていく若者たちにとって、地球への旅は、いつしかワクワクする冒険旅行のようになっている。

「清実も来ればよかったのにな。」不動が子どものような顔でつまらなさそうに言い放つ。

「清実殿は、誠実なお方ですからね。実さまのお傍付になられたばかりでは、さすがに、役を降りることはなさらないでしょう。でもまあ、一緒に来られたなら、もっと面白くなったでしょうにね。」

「清実の代わりにご参加された、えと、応、応なんでしたっけ?」

「応凌殿ですね。」

「そう、その方だ。彼は、どのような方なのでしょう?一条は面識がありますか?」

「いえ、今回、初めてお会いします。われらよりも少し歳がお若いようですね。」

「さようですな。清実の代わりに自ら手を挙げられたと聞くが、どのような方なのか興味がありますね。」

「どうやら地球に降り立つまでには、まだかなりの時が必要なようですので、そのうち、じっくりと話を聴く機会もありますよ。」

 

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さて、それからの月日というもの、彼らは、地球という星についてのレクチャーを受け続けていた。

人として生まれるためにどのような道を通らねばならぬのか。人として生まれるまでの時の中で行われる魂と肉体との融合の時間について。すべからく人は魂の記憶を忘れ、地球に生まれ、生きることになること。人の心に生まれる闇というもの。地球に絡まる問題、闇や魔、悪というものについて。人の生と死について。肉体を離れ魂に戻ってからのこと・・・等々・・・

初めて見聞きすることばかりのことに、少しとまどいを憶えながらも、ワクワクしながら地球に降り立つ日を心待ちにしているこの期間は、子どもが遠足に行く前の気分に似ているかもしれない。

「肉体を持つって、一体、どんな感じなのかしら?」自由奔放でいつも明るい照染が声をあげると、みなが振り返った。

「記憶を無くしてしまうって、ちょっとコワイような。」

「あ!コワイって、この前、教えてもらった人間の感情ね!」照染は笑った。

「怒りとか、恐怖とか、知らない言葉や感覚を、疑似体験させてもらった時、どう思った?」不動は照染に問うた。

「あれは、変な感覚だったわね!でも、知らないものを知るのは面白いわ。」

「さすが!愛を顕現しに行くと言い放っているだけのことはあるな。」

「私は、背中がサワサワして、妙な心持ちになりました。何か大切なものを奪われてしまうような…。自分が否定されたような嫌な気分で、赦すことができなくなってしまったように感じました。」応凌が言った。

「赦すことができないとは、それは大変なことですね。愛と慈しみを手放してしまうことに繋がりますものね。そなたは、まだお若いようだから、無理をしすぎてはなりませんよ。」蓮華媛が慈母の笑みで返した。蓮華媛は、源水のご内室となられたばかりの方である。源水殿が日美の国に赴かれることとなったので、蓮華媛は、自らの意志で日美の神のお世話係として同行することを決められたのだ。

だが、日美の神はまだ青河龍王の場に到着されてはいなかった。

 

「それにしても、地球って不思議な場所ですね。そんなにいろんな星からの魂たちを受け容れるって、一体、どんなことになっているのでしょう?」

「地球という星の中に、いくつも国があって、それもその国ごとに言語が違って共通する言葉がないとか、人の色が違うとか、同じ星の中にいるのに、それはすごく不思議だし、興味が湧きますね。いろんな国の人に会ってみたいし、話してみたいですよ。」

 

それぞれに興味の湧く対象が違うこともまた楽しく、語り合っていると、あっという間に、その日が終わっていく。こちらの方が、三国よりも少し時の流れが速いように感じた。

 

 

 

(うつしみの星へと)

翌日の夕刻前に、日美の神がようやく到着され、青河龍王と日美の神は、長い時を費やし、会合を持った。

宵の刻限になり、みなに声がかかり、久方ぶりに、日美の神のお姿を目にした。

日々の時を楽しく過ごしていたはずなのに、日美の神の姿を見ると、みな、ほっとしたような表情を浮かべ、その場の雰囲気が和らいだ。日美の神が登場すると、その場は、なんとも芳しい香りが漂う。百合の花のような華やかでありながらも、白檀の薫りのような奥深い香りでもある。辺り一帯がやわらかな白い光に包まれていた。

日美の神は言った。

「明日、第一陣がうつしみの星へと移動することになりました。みなもすでに話を聴いている通り、うつしみの星は、地球に誕生するために必要な肉体をいただく場になります。

さて、第一陣の組を決めたいのだが…」

「はい‼私が参ります。」応凌であった。

「そなたは、清実の代わりに参ったという実の国の者ですね。まだ若き魂のようですが、先に参るのですか?」

「はい。私はまだ若いゆえに、みなさまよりも経験が少なく存じます。ゆえに、みなさまよりも先に行き、地球にて経験を積み、みなさまをお迎えしたいのです。」

そうして、応凌はじめ9名が先にうつしみの星へと向かうことが決まった。

 

 

 

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