魂たちの物語〜地球に生まれて〜

地球に生まれし魂(ひと)としての物語を綴っていきます

其の十二

(神の誓約)

時を少し遡る。三国の者たちが、青河龍王のもとにて研鑽を積んでいる間、日美の神は、高天原と地球に纏わる神々についての情報を集めつつ、地球と本国に残している日見の神と、直接のコンタクトがとれるよう新たなルートづくりと、自らの神魂(かむたま)の半分を置いておくための別次元の場を設けていた。地球人として生まれ、死んだあと、共に地球に向かう者たちを置いていくわけにはいかない。自身が最後まで地球に残っていられればよいが、そもそものミッションを考えると、たぶんそうはいかないことはわかっていた。

それゆえに、誰一人として、地球に置き去りにすることのなきよう、万が一のための場を用意していたのである。あえて、神魂を半分に分けるには、理由があった。人として肉体を持った状態であれば、思うように動くことができない。ましてや、神である存在であろうと、地球では、記憶を手放すことになるのは、他の者たちと変わりはしない。思い出せぬことがあるとは思えぬが、思い出したとして、それが何歳でのことかもわからぬし、

そもそも、人であれば、いくら神の質の魂を持っていたとしても、本来の神魂の力を発揮することは困難であろうことは容易に想像がつく。

それゆえに、神魂を半分に分けて、地球上に生きる人の意識とは、別次元の意識体を作り、そちらの意識体にて、自由に様々な場に行き来をすることにしたのである。

それにより、人ではキャッチできない情報を得ることもできるし、地球にかかる黒い魔の正体を掴むこともできるであろう。また、それらを完全に祓うための算段を練ることを考慮していたのである。

 

日美の神は、すでに、地上に降り立ちている大物主の神の山へ、何度も降り立ちては、そこから、地上の神々とコンタクトをとった。

地上に坐す神々のうち、どれくらいの神が、今回の高天原のことに、そして、地球にかかる脅威に向き合っておられるのか、直接、知りたかったのである。

大物主の神は、この難局に立ち向かうため、日美の神とともに動いた。

大物主の神の呼びかけにより、地上の国を超えた様々な神が集まる場が設けられ、そこで、日美の神は、それぞれの神の話を聴き、また、己が集めた情報の共有をなさしめた。

この話が、ここに集いし神の知るところではないことも多く、神々の中には大きな困惑が生まれた。

日美の神は、今、自らの星から、十数名の若者たちが、さらなる情報を得るために、人として地球に生まれることを選択し、青河龍王のもとから、うつしみの星へと向かっていることを告げ、彼らが人として生まれ落ちた際に、彼らに力を貸してくれる神々を募った。

ほとんどの神が渋い顔をし、「検討するゆえしばし待たれよ。」と、その場を立ち去ってしまった中で、自ら、日美の神のもとへと歩み寄ってきた神がいた。

艶やかな長い髪を高く結い上げ、薄い絹布のような透ける布を何枚も重ねて仕上げた独特の服を纏った妖艶なまでの美しさを湛える女神である。芳醇で甘い香りがあたりを包み込む。

「日美の神様。お初にお目にかかります。わたくしは、倭の国の大いなる水の化身、タカオカミと申す者。大物主の神様とは、旧き付き合いのございます。」丁寧に挨拶したかと思うと、高龗の神は、突然、甘い声と表情になり、日美の神のそばへと詰め寄った。

「わたくし、日美の神様のお役に立てると思いますわ。ええ、必ず。」

日美の神は、丁重に感謝の意を述べ、そして、静かに笑みを返した。

「日美さま・・・わたくしと契りませう。さすれば、われらは、運命共同体。なにが起こっても、わたくしは、あなた様とあなた様のお供の方々を、地上にてお守りいたしますわ。」

日美の神は、再び、静かに笑みを返し語った。「それはかたじけなきお言葉。感謝申し上げます。なれど、私には、わが星に、すべてを分かち合う妹背を残しております。あれの悲しみは、私の悲しみそのもの。また、わが痛みは、そのままにあれの痛みそのものになるのです。あなたと契ったならば、わが妻にはそのままに伝わりましょう。私は、すでに遠き場に赴くことで、あれに深い悲しみを負わせておりますので、これ以上を与えるわけにはまいりません。美しく尊き神よ、あなたのお力をお借りするに、他の手立てを考慮いただくわけにはまいりませぬか。」

高龗の神は、目を細め、日美の神の目をまっすぐに見つめた。日美の神も、高龗の神の目をまっすぐに見返し、また、静かに微笑んだ。

「あぁ・・・。そう、そうなのね。わかったわ。お二神の間には、どこのどなたも入り込めないというわけね。そのように創られし神ということね。仕方がないわ、諦めます。

けれどね、私は、しつこくて激しいの。私は、日美の神あなた様に、一目で落とされてしまったの。このまま引き下がるわけにはいかないわ。私はこの地上の神だから、地上に人として生まれることは叶わない。けれども、わたしの分身を産み落とすくらいのことはできるわ。あなた様が人としてお生まれになっている間、私の分身を、あなた様の妻として、おそばにいさせてくださいませ。さすれば、きっと必ず、あなた様のことも、みなさまのことも導くし、お護りもいたしますわ。」

激しく美しい女神の思いを、日美の神は受けとめ、神同士の誓約を交わした。

こうして、地上に雨を降らし、川を、水を司る女神が、大きな力になってくれたのだ。

 

 


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