魂たちの物語〜地球に生まれて〜

地球に生まれし魂(ひと)としての物語を綴っていきます

其の十一

(再びうつしみの星にて)

 

一条、不動の他、数名がうつしみの星に到着した。第一陣と同じように、不思議な空間を通り、それぞれの間に案内されていく。どの部屋の案内も、まるで音声データのように前回と同じことを告げていた。だが、第二陣は、第一陣とはまるで異なった様相を呈していた。なぜなら、一条の質問があまりにも多く、また、その質問のすべてが精彩だったからだ。

たとえば、「その肉体は、地球を創りし神が、地球に様々な命の花を咲かせるためにこさえた器。なれど、その神はもう幽宮にて隠遁あそばして、この器の数は限りがございます。まだまだ数千年分の種はありますけれどね。そのようなものですから、十分、大事に使うてください。」と説明された時のことである。

「器の数に限りはあるが、種は数千年分ある。ということは、器と種とは別のものであるということでしょうか?それとも、単に、器と種とは同義と捉えてよろしいのか?

もし、種はあるが器はないとなると、その後の肉体という器をどなたがお創りになられるのでしょう?」このような感じである。

その質問の問いについても、また質問が繰り広げられる。この問答は、ある意味、見事であり、そこに同席していた一同は、唖然としながらも、その智慧はどこから湧くものか、次はどのような質問が繰り広げられるのか、楽しみになっていたくらいである。

なかなかに時間を要して、ようやく彼らは、それぞれにお気に入りの箱を選び、親子の縁を結び、夫婦となる縁をいただいた。

 

その一連の様子を、少し離れていた場にて見ていたうつしみの星の神と、遠い場にあって同じ映像を見つめていた青河龍王は、同じ思いを抱いていた。

「これは、かなりの切れ者だ。さすが、日美の神のおそば仕えを許されたというだけのことはある。賢さといい行動力といい申し分のない若者だ。なれど、あの地球にて、果たして、この賢さはどのようにあらわれてくるものか。まかり間違えば、身を滅ぼすことに繋がるかもしれぬ。なるほど、それゆえに、日美の神が直々に、この遠征に加わったということか。」うつしみの星の神が独り言ちる。

 

「吉と出るか凶と出るか、これは見ものであるが…なんにせよ、彼らの一挙手一投足をこれから見させていただくとして、万が一のことがあらば、すぐにでも駆け付けられるよう、こちらも段取りを済ませておかねばならぬな。」青河龍王はそば付きの二名を自室に呼びつけた。

 

 

うつしみの星の一室には、これから地球へと向かう勇者たちが集まっていた。

「あなた方には、これから、肉体となる器の中に入っていただきます。

その器の中にて、己と対峙する時間をお持ちください。また、時が訪れると、その器の中にある種と、あなた方との間に、意識の交流が生まれます。そして、さらに、時が至った時、その器は姿を変えて、地球へと降り立つこととなります。

くれぐれも、己の本分をお忘れなく、それぞれの祖神様との誓いを真行として、地球にてお過ごしくださいますように。

また、重ねて申し上げておきますが、地球に降り立ちますと記憶はすべて消え失せます。今、どんなに強い意志があり、願いがあって、地球に降り立つことを希望されていたとしても、あちらの世に降りれば、そのすべてを手放している状態で生きることになります。地球には、様々な星や場から、様々な魂を乗せた人が大勢暮らしております。地球には闇も魔も悪もあります。精神を破壊するような出来事に襲われるかもしれません。それでも、光を持って地球へと向かいたいと、心より思い願う方のみ、自らで選んだ箱にお入りください。やはり辞めたいと思われる方は、ここに残ってください。箱に入ってしまってからでは、抜け出すことはかないませんので。」

この説明を聴いて、この場に残る選択をする魂たちは、必ず四分の一程度いるという。

何度となく耳にする地球の話を聴いているうちに、ワクワク気分の遠前の気持ちではいられなくなるようだ。

残った者たちは、うつしみの星から、各星の直行便にて、帰国することとなる。

それもまた、よくある話なので、誰も何も言うものはいない。

行かぬ選択は恥ずかしいことでも、面目が立たないということでもなく、単に、行かない選択をしただけのことなのだ。

自らの居場所である星から、別の星へと学びに行くために出立をした者たちは、地球以外の星を選び直すだけのことである。そこには特別の意味は存在しえない。

 

日美の星、紀の星、実の星からやってきた者たちの中には、その場に残る選択をする者は、ひとりとしていなかった。

地球に覆いかぶさる闇を祓い、愛と慈しみによる光を届ける。そんなシンプルな願いのみで、彼らは、地球へと向かおうとしているのだ。

地球がどんな星であるかを知らずに・・・。

 

同じ頃、日美の神は、みなとは別の場にて、器となる箱と種を選び終えていた。日美の神が地球に向かうためのルートは、他の者たちとは違う。

日美の神は、今回のミッションを為すために、この一同がなるべく一つところに生まれ、家族、親族、師弟関係等、身近にて支え合い、補い合える関係となれるよう手筈を調えており、その流れの中で、若者たちはみな、その肉体となる器や親子、夫婦となる縁を紡いでいた。

このようなケースは、決して特別なわけではない。

釈迦やイエスキリストなども、似たようなケースを辿り、地球に降り立っている。

 

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其の十

(青き宝)

一方、第一陣がうつしみの星に移動して、肉体選びをしている間、青河龍王の星に残っていた一条たちは、地球にて何をすべきなのか、何をしたいのか、己の深きに向き合う時を持っていた。

ひたすらに己に向き合う姿は、他の誰よりも真剣であった。ともすると、いらぬ深みにまではまっていくのではないかと思わせるほどの集中力に、なんとも言えぬ危惧を感じとった青河龍王は一条に声を掛けた。

「一条。あまり根を詰めぬ方がよい。行ってみねばわからぬことも多い。どうだ。少し歩かぬか。そなたの星は、それはそれは美しい星だが、わが星には、そなたの星にはない美しさがある。繊細で清らかな日美の神と日見の神が創り上げた世界にはない、猛々しき美というものがあるのだ。供に参れ。」

青河龍王は、その様子を近くで見ていた日美の神に一瞥した。日美の神は、にこりと微笑んで「お願いします」とばかりに頭を下げた。

 

青河龍王と一条は、裏手の庭から表へと歩き出し、近くを流れる渓流に沿って歩を進めた。

「青いですね。」なんとはなしに口について出た言葉に、一条の物思いは、ふっと消え失せた。自分でも驚いたようだ。

「そうだ。この星はすべてが青い。青く若々しい気でみなぎっているのだ。それは、そなたの若い魂に必要なエネルギーだ。そなた、いつからか己の若きエネルギーをたぎらせるより前に、物思いにふける癖をつけておるであろう?」

「あ・・・」

「これが、わが星や、日美の星であれば、なんの問題にも発展はしないが、地球では違うことを憶えておいた方がいいぞ。そなたのそのたぎる思いは表に顕わしてこそ、一条の光として、すべての闇を祓うであろう。思いを内に込めていては、そなたは自らの思いで、己自身を喰いつぶしてしまうかもしれない。そなたの一条の光は、諸刃の刃だ。己にも、他者にも、道しるべとしての光を指し示すことができようが、思いの取り扱いを間違うれば、己も他者をも巻き込んで、焼き尽くしてしまうかもしれぬからな。」

一条は、青河龍王の語る言葉の意図が掴めず、「はあ。」とだけ返事をした。

気を取り直したように、青河龍王は、一条を連れて、渓流のさらなる奥地へと連れて行った。水の流れが見てとれなくなる場まで辿り着く。そこには小さな洞窟の入り口のような穴が開いていた。青河龍王は、小さくかがんで、こちらへおいでと一条を誘った。

「ここから入るのか?」驚いたようであるが、一条の顔はまるで子どものようにワクワクした表情に変わっていた。

「中へ。頭を気を付けてな。」

小さくかがんで中に入った途端に、一条は大きな声をあげた。

「うわあ~!すごい!真っ青だ!なんていう青だ!水も壁もすべて青く煌めいて輝いている!!」

「どうだ?」青河龍王は、自慢げに一言語った。

「すごいです!この青!見たことがない。あの青い地球の映像を見た時、あの星の美しさにも心を奪われましたが、ここの青はまた違う。そして、なんて広くて大きいんだ。あんな高いところまで、ずっとずっと青が続いている。」

「よし。もう少し奥まで行ってみよう。ついておいで。」

「はい!」嬉しくてたまらない様子で、青河龍王のあとをついていく。

ああ、この方は、どこか日美さまに似ていらっしゃる。自由でおおらかでいらっしゃるのに、実は細かなところまで目を光らせておいでなのだ。わたしのことも、真剣に考えてくださっている。そういえば、たしかにこのところの私は、ずっと地球のことに捉われ過ぎていて、己の光の使い途すら忘れていたように思う。

そんなことを思い巡らせていてのもつかの間、周りの美しさに見惚れて、一条はすっかりこの空間の青の虜となっていた。

青河龍王が立ち止まったところには、深い深い真っ青な泉があって、水面にきらきらとした光を漂わせ、ゆらゆらと揺れていた。あまりの深さゆえ、中は見えぬだろうと覗き込んだら、数十メートル先の泉底までが映し出され、そこには美しい紅色と思われる小さな花がたくさん咲いていた。

一条は思わず、手を伸ばし、その花を摘む仕草をした。あまりにも透明な水に、泉の底はすぐそばにあるかのように錯覚するのだ。

「美しかろう、一条よ。」

「はい。とても。なんと思わず手が出てしまいました。まるで稚児のように。」と、一条は、照れくさくなって笑い出した。青河龍王も笑った。

「ははは。よいのだ。己の心に素直にあることこそが大事なことだ。地球に行っても忘れるな。」

「はい。忘れぬように努めます。この美しき青と、そして、龍王様のお心遣いを決して忘れたりはいたしません。この青が私の心を素のままに戻してくれたようです。」

「よし。では、一条にこの青を差し上げよう。」そう言って、青河龍王は、水面の水を一掬いした。「手を貸しなさい。」と言われ、一条は両手を差し伸べた。そこに、掬った水を乗せると、その青い水は、青い宝石のような美しい雫となった。

これを常に身につけておくのだ。というても、地球では今のそなたの姿は使えぬけれどな。

「では、どのようにしたよろしいのでしょう?」一条はうた。

「そのままに。そなたが持っておれば、地球に生まれし人の中にも、この青き光や宿る。

そなたの珠の光とともにな。もし、万が一、地球にて困ったことがあれば、われは必ず、そなたを助けに参るゆえに、決して、この青き雫の珠だけは手放すなよ。」

「ありがたき幸せ。一条、決して青河龍王様のご厚意を忘れたりはいたしません。この青い雫の珠は、私の生涯の宝といたします。」

 

こうして一条は、大切な青き宝珠を一つ御胸に携えて、うつしみの星に向かうのだった。

 

 

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其の九

(肉体という器)

 

選べ・・・と言われても、何をどう選んだものか、誰もが少し躊躇していた。

地球という星に入るためには、肉体という器が必要であるということは理解できるが、そもそも、肉体と言われても、それがどういうものであるのか、まるっきり理解できてはいないのだ。

「どれにしよう?」それでも興味津々に箱を眺めながら、自分の直感に従ってみようと、わくわくしている者や、どこかいぶかしげに、箱を手に、眺めまわしているものと、様々な反応がある。その様子を一部始終、じっと見つめている存在があった。うつしみの星を統べる大神である。

 

一同が、箱を選び終えたところで、どこからともなく声が響いてきた。今度はまた別の声だ。「そなたたちが選んだ器となる肉体は、いずれ、その生を終えると、腐り朽ち果てていくゆえに、地球の大地へと還してください。また、肉体と魂は、まるで異世界のものであるから、一つになるには、それなりの苦痛を伴います。生まれる時も死ぬ時も、未だ知り得ることのなき感覚が訪れるでしょう。けれども、ご案じなさいますな。それは、誰にでも訪れる肉体と魂の融合、そして、肉体と魂の別離。それがなくば、地球に生きることは出来ぬのです。また、その肉体は、地球を創りし神が、地球に様々な命の花を咲かせるためにこさえた器。なれど、その神はもう幽宮にて隠遁あそばして、この器の数は限りがございます。まだまだ数千年分の種はありますけれどね。そのようなものですから、十分、大事に使うてください。」という。

やはり、肉体というものの感覚が掴みきれないと、応凌は思った。

さて、一行は、次の間へと通された。そこには、最初の説明の通りに、別の星からやってきている魂たちが参加していた。

「みなさまには、これから、肉体の親子関係を選ぶ作業をしていただきます。」

そこに集まっている全員に?マークが浮かんでみえた。

案内係の女官は、みなの反応にはまったく無関心に、話を続けた。

「肉体が誕生するためには、まずは、その箱の中に入っている種を、女性の性を持つ方の腹に宿してもらわねばなりません。そのために、男性側の肉体が持つ無数の生命の種を女性に渡してもらう必要があるのです。」

「え?ということは、この箱の中には、無数の種が入っているのですか?」見知らぬ誰かが質問した。

「いえ。この箱の中に入っている種は、あなた自身の肉体になる種なので一つです。

そこには、あなたが、あなたという人になるための情報が詰まっているのです。

その種を無事に地球に届けるために、無数の種が必要になるのです。」

答えを聞いても意味がわからず、そこにいた全員が静かになった。

「では、これからみなさまに、人として地球に誕生するためのこれからの流れを映像としてみていただきます。」

空間の中に、突如として、青く美しい地球星が顕われた。やはり、とてつもなく美しく魅力的な星である。その星に向かって、無数の小さな光が飛んでいくのが見える。

「この小さな光が、その箱の中に入っている肉体の情報の種になります。陰陽のエネルギーを持っており、右回転しながら、地球へと向かいます。」

地球がクローズアップされ、さらに、そこの星に生きている『人』というものが見えた。

「われらと似たような姿形をしておる。」どこからともなく声が漏れた。

「さて、情報の種が肉体に宿ります。女性の陰と男性の陽が重なりて、陰陽の種を迎え入れるのです。」

なにやら不思議な妙技をしている裸の男性と女性の姿が映し出された。

「なんでしょう。みょうちくりんですな。」また、誰かが声をあげる。

「男性の突起部分と、女性の凹み部分を合わせることで、種が女性の腹に入り、地球時間の10月10日、女性の腹の中で肉体を完成させていくのです。」説明が入った。

一同から、ほお~と声があがった。

「これはまた、大変な作業のようですな。女性を選ばれた方は、肉体の種を自らの中に宿し、自分とは別の魂を呼び込むということなのですね。それはなんとも素晴らしくもありがたい菩薩の行ですな。」

「さようさよう。私は、男性の箱を選んでしまいましたが、女性の箱を選ばれた方には、感謝せねばなりません。」

「まあまあ!男性の方の中にある無数の種がなければ、どうやらこの箱の中の種は、無事に届けられぬということですし、男性の箱を選ばれた方々にも、大変なお役目がおありのようです。ありがたきことです。」地球での男女の営みの映像を見ながら、この部屋の中では、このような会話がなされていた。説明係は、ここでもなんの感慨も示さない。ほとんどいつもの光景のようだ。

「それにしても、地球に生まれるとは、なかなかに難儀なようですね。話は、わが神より聞いてはきましたが、想像を遥かに超えておりました。」

「そうですわね。こんなに面倒な手順があるとは。わが神がわれらをお生みくださった時の様子は見たことはございませんが、話に聞くところによれば、手と手を合わせ、気を合わせ、魂生みをされておられます。」

「わが神は、葉っぱにひと吹き息をかけ、魂生みをされていらっしゃる。」

「われらが神は、聖水の雫を一滴、聖なる樹の葉に乗せ、魂生みをされておられます。」

そこに集う魂たちは、わが神の話となると、急に勢いづいて、話に華が咲くのである。

説明係は、それもまたいつものことと、みなの会話が落ち着くまで、しばしの時を置く。

 

「それでは、みなさま。お話も落ち着かれたようですので、これから親子となる者同士を選びますよ。これは、決して変わることはございません。では、こちらへ。」と、説明係は、隣の控えの間にいた魂たちを呼び込んだ。

「この方々は、あなた方よりも先に、こちらにいらっしゃり、すでに、生んでくださる親を選び終えた方々です。この方々の中から、親になる方、子になる方を選んでいきます。

どのように選びますか?くじ引きでもかまいませんし、お互いに親子になりたいと思われる方がいらしたら、決めていただいてもかまいませんよ。」

ここに集う魂たちのすごいところは、ここで決して揉めることがないことだ。

なんとなく、気が合う感じがして、親子になりましょうか?と決める者もいるが、私はどなたとでもと美しい謙虚さでもって、くじを引く者もいる。二人、三人と一緒に、同じ親を選ぶこともあるし、親を選んだら、たまたま兄弟姉妹になることもある。

揉めることがないので、案外、スムーズに親子が決まった。

「はい。みなさまお揃いですね。では、次の間へと移ります。次は、夫婦となる方を選ぶ場になります。」

ぞろぞろと、みなが次の間へと入っていく。そこにも、また、初めて出会う魂たちがいた。

「先程、みなさまに、種を肉体に宿すための作業手順を見ていただきましたね。その作業を協働する相手を、ここで選んでいただきます。」

男性の器を持つ者と、女性の器を持つ者と、同じ数の魂がそこには存在していた。

たまたま隣に居合わせた者同士、「ではご一緒しますか。」と簡単に決まっていくことも多いが、あれやこれやと歩きまわって、相手を探すものもいる。

ここでも、何一つ揉めることなく、相手を選ぶことができた。

「地球に生まれるのが楽しみですね。あちらでお会いしましょうね。」

みな、それぞれに言葉をかけあって、その場を離れ、次の間へと移っていった。

次の間には、さきほど集まっていたメンバーはいなかった。よく見ると、その部屋には、日の国、紀の国、実の国からきた面々だけが揃っていた。

「おつかれさまでした。」という声が、またどこからか響いてくる。

「そなた様たちは、日美の神よりのご依頼により、ここに集いし方々ですので、

こちらにて、地球に生まれた際に担う『三つの珠』をお渡しします。ですので、まずは、そなた様たちが地球で何をなさりたいのか願いを教えてください。

そこに集った者たちは、それぞれに地球で生きる上での誓いのようなものを立てた。

うつしみの星の神は、それぞれの箱の中に、三つの珠を入れてくれた。その珠には、その珠の役割を表す文字が一文字書かれていた。

神は言った。「よいですか。これからあなた方は、この箱を持って、地球に生まれるまでの間、しばらくの時を待たねばなりません。先程、親子の縁を結んだ方が先に地球に生まれ、地球上の時を過ごし、男女の交わりによって、あなた方を呼び寄せてくれるまで待機するのです。地球上では数十年の月日が必要となりますが、こちらの時間ではそう長くはかかりません。それまでの間、調えてお待ちになっていらしてください。何度も申しますが、地球では、今あなた方がもっているその記憶のすべては消えてなくなります。

魂としての己のことも、ここで誓った願いのことも、親子の縁を結んだ方のことも、

夫婦の縁を結んだ方のことも、同胞であるそこに集いし仲間たちのことも、

そして、祖神であられる存在のことも忘れて生きるのです。

それをしっかりと憶えていてください。

それでも、あなた方の志が強く尊くあれば、魂の記憶の一部、祖神の存在などの片鱗を思い出せることがあるかもしれません。

それはすべて、今、ここにいる間のあなた方の意志にかかっていると言っても過言ではありません。

強く、けれど、どこか切なげな音を秘めたうつしみの星の神の声が響いてきた。

 

 

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#魂たちの物語

#地球に生まれて

#魂の生きる道

其の八

【うつしみの星】

ここは、今まで経験したことのないような場だった。

まるで音のない世界のような、空気が閑として冷え切っているような、揺らぎが一つもないような世界であった。にも関わらず、案内されている長い通路のような、廊下のような空間には、一定にろうそくの灯のような灯りがゆらめいていて、妙に幻想的である。

うつしみの星の中央には、大きな城と高くそびえたつ搭が建っていた。この星に辿り着いたと思ったら、一行は、すでにその城の大きな門の内側に入っていた。

どこからともなく声だけが響き、その声の導き通りに歩みを進めると、城に入るための大きな扉が開いた。が、中は真っ暗で、何も見てとることが出来ない。

「ここより、まっすぐにお進みください。」また声の主が案内を始める。

「ここうつしみの星には、九つの部屋がございます。まずは、一番重要な地球に生まれるために必要な肉体を選ぶ部屋にございます。肉体というものについては、みなさま、認識されたことはないと思いますが、先に、地球という星の講義の中で学ばれていらしたと伺っておりますので、通常の講義はパスさせていただきます。

次は、地球でのお役割(天職)をえらぶお部屋です。そして、親子を選ぶ部屋。パートナーを選ぶ部屋です。親子とパートナーを選ぶお部屋につきましては、他の星からご参加される方もご一緒となりますので、ご了承くださいませ。

では、このまままっすぐにお進みくださいませ。」声の主の気が消えた。

 

「九つの部屋があると言っておきながら、四つしか説明がないのは何故なんだ?」応凌は首を傾げた。それにしても、一体、どこに部屋というものがあるものか、あまりにも長い通路を歩き続け、退屈になり始めた矢先に、突然、何もなかった空間から重厚感のある扉が顕われた。

扉が開くと、中から、髪を高く上へと束ねた女官のような方が、「こちらへ」と身振りで部屋の中へと誘ってくれた。

 

その部屋の中には、いくつもの箱が無造作に並んでいた。並んでいたというよりは、適当に置かれていたという方が近いかもしれない。

それにしても。扉を開けて部屋に入ったというのに、そこには、壁もなく、天井もなかった。けれども、たしかに部屋のような空間になっているのである。

先程の扉のように、今度は、美しい女神のような存在が、忽然と姿を顕わした。

「ようこそ、お待ちしておりました。オオモノヌシノの神より、お話は聞いてございます。かの美しき日美の神のご依頼とあらば、聞かぬわけには参りませんからね。

こちらのお部屋は、特別室にございます。肉体を選ぶお部屋となりますが、一般の魂人たちが入れる場ではございません。特別な神よりのご依頼があった方のみが入れる場。

ここを通られる方はみな、大和・日の本の国へと生まれることが決まっておりまする。

もちろん、他の肉体を選ぶ場を通る方の中にも、たくさん日の本の国に生まれることになる方がいらっしゃいますが、こちらの場にて箱を選ばれる方につきましては、日の本に集いし神々との協働作業をされることが決まっております。もちろん、あなた様方は人として地球に存在しておりますので、人と神との協働作業ということになります。

「では、みなさま。ここにある気に入った箱を一つだけお選びください。」

「すみません」と、応凌が手を挙げ、質問した。

「箱の中に入っているものは何ですか?肉体というものが入っているということなのでしょうか?」

「この箱の中には、肉体になる種のようなものが入ってございます。陰と陽のエネルギーが人の体に入って大きく育っていくのです。」

「この箱に刻まれてある数字はなんですか?」

「そちらの数字は、その肉体のだいたいの耐用年数だと思ってくださいませ。数字の横に描かれている象形は、性別を顕わしてございます。箱を選んでいただきましたら、次の間へご案内いたしますので、さあ、お選びください。」

 

#魂のものがたり

#魂たちの物語

#地球に生まれし魂(ひと)として

 

関連記事のご案内~地球にうまれしひと~

関連記事をこちらにリンクしておきます。

『うつしみの星』についても書かれてございます。

まだ、ご覧になっていらっしゃらない方は、以下よりご参照ください。

 

地球に生まれしひと

https://nekota-nekokichi.hatenablog.com/entry/2023/02/09/133421 

其の二

https://nekota-nekokichi.hatenablog.com/entry/2023/02/10/171413  

其の三

https://nekota-nekokichi.hatenablog.com/entry/2023/02/12/191953  

其の四

https://nekota-nekokichi.hatenablog.com/entry/2023/02/13/113554  

其の五

https://nekota-nekokichi.hatenablog.com/entry/2023/02/13/214531  

 

 

地球に生まれしひと~流転~

https://nekota-nekokichi.hatenablog.com/entry/2023/02/14/202626 

地球に生まれしひと~流転Ⅱ~

https://nekota-nekokichi.hatenablog.com/entry/2023/02/15/205659   

地球に生まれしひと~流転の果てに~

https://nekota-nekokichi.hatenablog.com/entry/2023/02/16/212549          

 

 

#しあわせこころのつくり方

#地球に生まれしひと

#地球に生まれし魂

 

 

其の七

龍王の星)

一条たちは、青河龍王が開いた次元の扉をくぐり、見知らぬ空間を通り抜けて、青河龍王の統べる星へと辿り着いた。日美の星とも、紀の星とも、実の星とも違う、そのままの自然が生い茂る場である。自然豊かであるのは、自国の星々と同じであるが、こちらの星の自然はすべて青が添えられた緑をしている。水の色も大地の色も、木々の色も、すべてが青の色を含む。きらきらとした青い色の中に佇んでいると、水の中にいるような勘違いを起こしそうになる。

17名の一行は、手厚く迎えられ、客室へと案内された。これからしばらくの時をここで過ごすことになる。各室は、それぞれかなり広い。当初は、各自にそれぞれに用意されていた部屋であったが、あまりにも広いため、場を持て余してしまうので、2~3名ずつの部屋割りに変更された。一条は、不動と同室となり、夜毎日毎、各々の情報網を駆使して集めた宝のような知らせを、互いに共有しては、対策を練っていた。

話がどんどん盛り上がっていく若者たちにとって、地球への旅は、いつしかワクワクする冒険旅行のようになっている。

「清実も来ればよかったのにな。」不動が子どものような顔でつまらなさそうに言い放つ。

「清実殿は、誠実なお方ですからね。実さまのお傍付になられたばかりでは、さすがに、役を降りることはなさらないでしょう。でもまあ、一緒に来られたなら、もっと面白くなったでしょうにね。」

「清実の代わりにご参加された、えと、応、応なんでしたっけ?」

「応凌殿ですね。」

「そう、その方だ。彼は、どのような方なのでしょう?一条は面識がありますか?」

「いえ、今回、初めてお会いします。われらよりも少し歳がお若いようですね。」

「さようですな。清実の代わりに自ら手を挙げられたと聞くが、どのような方なのか興味がありますね。」

「どうやら地球に降り立つまでには、まだかなりの時が必要なようですので、そのうち、じっくりと話を聴く機会もありますよ。」

 

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さて、それからの月日というもの、彼らは、地球という星についてのレクチャーを受け続けていた。

人として生まれるためにどのような道を通らねばならぬのか。人として生まれるまでの時の中で行われる魂と肉体との融合の時間について。すべからく人は魂の記憶を忘れ、地球に生まれ、生きることになること。人の心に生まれる闇というもの。地球に絡まる問題、闇や魔、悪というものについて。人の生と死について。肉体を離れ魂に戻ってからのこと・・・等々・・・

初めて見聞きすることばかりのことに、少しとまどいを憶えながらも、ワクワクしながら地球に降り立つ日を心待ちにしているこの期間は、子どもが遠足に行く前の気分に似ているかもしれない。

「肉体を持つって、一体、どんな感じなのかしら?」自由奔放でいつも明るい照染が声をあげると、みなが振り返った。

「記憶を無くしてしまうって、ちょっとコワイような。」

「あ!コワイって、この前、教えてもらった人間の感情ね!」照染は笑った。

「怒りとか、恐怖とか、知らない言葉や感覚を、疑似体験させてもらった時、どう思った?」不動は照染に問うた。

「あれは、変な感覚だったわね!でも、知らないものを知るのは面白いわ。」

「さすが!愛を顕現しに行くと言い放っているだけのことはあるな。」

「私は、背中がサワサワして、妙な心持ちになりました。何か大切なものを奪われてしまうような…。自分が否定されたような嫌な気分で、赦すことができなくなってしまったように感じました。」応凌が言った。

「赦すことができないとは、それは大変なことですね。愛と慈しみを手放してしまうことに繋がりますものね。そなたは、まだお若いようだから、無理をしすぎてはなりませんよ。」蓮華媛が慈母の笑みで返した。蓮華媛は、源水のご内室となられたばかりの方である。源水殿が日美の国に赴かれることとなったので、蓮華媛は、自らの意志で日美の神のお世話係として同行することを決められたのだ。

だが、日美の神はまだ青河龍王の場に到着されてはいなかった。

 

「それにしても、地球って不思議な場所ですね。そんなにいろんな星からの魂たちを受け容れるって、一体、どんなことになっているのでしょう?」

「地球という星の中に、いくつも国があって、それもその国ごとに言語が違って共通する言葉がないとか、人の色が違うとか、同じ星の中にいるのに、それはすごく不思議だし、興味が湧きますね。いろんな国の人に会ってみたいし、話してみたいですよ。」

 

それぞれに興味の湧く対象が違うこともまた楽しく、語り合っていると、あっという間に、その日が終わっていく。こちらの方が、三国よりも少し時の流れが速いように感じた。

 

 

 

(うつしみの星へと)

翌日の夕刻前に、日美の神がようやく到着され、青河龍王と日美の神は、長い時を費やし、会合を持った。

宵の刻限になり、みなに声がかかり、久方ぶりに、日美の神のお姿を目にした。

日々の時を楽しく過ごしていたはずなのに、日美の神の姿を見ると、みな、ほっとしたような表情を浮かべ、その場の雰囲気が和らいだ。日美の神が登場すると、その場は、なんとも芳しい香りが漂う。百合の花のような華やかでありながらも、白檀の薫りのような奥深い香りでもある。辺り一帯がやわらかな白い光に包まれていた。

日美の神は言った。

「明日、第一陣がうつしみの星へと移動することになりました。みなもすでに話を聴いている通り、うつしみの星は、地球に誕生するために必要な肉体をいただく場になります。

さて、第一陣の組を決めたいのだが…」

「はい‼私が参ります。」応凌であった。

「そなたは、清実の代わりに参ったという実の国の者ですね。まだ若き魂のようですが、先に参るのですか?」

「はい。私はまだ若いゆえに、みなさまよりも経験が少なく存じます。ゆえに、みなさまよりも先に行き、地球にて経験を積み、みなさまをお迎えしたいのです。」

そうして、応凌はじめ9名が先にうつしみの星へと向かうことが決まった。

 

 

 

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其の六

 

(迎え)

高次の世界では、瞬間移動というものがたやすくできるものではあるが、異星間の移動については、すべての魂が同じようにできるというわけではない。思ってもみなかった亜空間の存在によって、移動の途中で座標軸が捻じ曲げられ、変異空間に落ちてしまうことも起こるため、注意が必要になる。ネットワークの構築がされていない場同士で、いきなり座標を合わせて移動することは危険すぎる行為である。

今回は移動する魂の数も多い。すべての存在が同じだけの速度や正確性を持って飛行できるわけではない。そのため、今回の地球行きは、遠回りであっても安全なルートを通ることにし、オオモノヌシノの範疇であるところの青河龍王の統べる地に向かい、そこで、さらなる情報を収集し、時期を待って、地球に向けての移動を始めることにしている。

総勢18名が多いか少ないかと言えば、さほど多いわけではないが、初めての、それも問題を抱えているであろう星に行くには、かなりの冒険である。そのため、日美の神は、青河龍王に迎えを頼み、自らを除いた17名全員を連れて行ってもらうこととした。

日美の神は、今後の情報通信のため、また、帰還ルートの構築のため、新たなルートが作れる空間を確認してから青河龍王の地へと向かうことにしたのだ。

地球へ向かう者たちの準備が調い、青河龍王が日美の国に到着された。

「よくいらしてくださいました。此度のご協力、重ね重ね恩に着ます。まずは、わが宮にて、ゆるりとお休みください。」日美の神は、丁重に頭を下げ、お付きの者に、青河龍王を宮に案内するよう誘った。

「そのようにかしこまらずとも。此度のことは、われらが星にも関係ないとはいえぬこと。これは、関わりのある神々みなが揃うて、対処していかねばならぬ案件ですから。

それよりも、まずは、私は地球に降りて集めてまいった話を詳しくお伝えいたしましょう。」

「かたじけなきお言葉。まずは、他のものたちのおらぬわが宮の奥にて、お話を聞かせてください。」

 

日美の星には、「スイ」と呼ばれるほんのりと甘くとろけるような御神水が湧いていて、

この水を口に含むと、まるで自身のすべてが新しく生まれ変わったかのように清まり、軽やかになる。この「スイ」の源は、日見の神が神事を行う奥の奥のさらに奥にある場にあり、そこには、日美の神と日見の神以外の者は、たとえ祖神であったとしても立ち入ることはできない。

青河龍王は、そのスイを口にして、感嘆の声をあげた。

「これはうまい!素晴らしい!なんという清浄さ。なんとも芳しく、そして優しい。

優しいのに、なんだこの力がみなぎるような感覚は。これは、どのようなものなのですか?」

「これは、奥の神事にて日見の神が司っているスイと呼ばれる湧水です。召し上がる方に合わせて、その質もやわらかさも香りも変わるご神水ですよ。」日美の神が答えた時、

その部屋の奥にある間から、日見の神が姿を顕わした。

「お話中に申し訳ございません。わたくしの元に、ご到着の調べが届かず、スイの準備を調えておりましたところへ、お二神がお越しになられてしまいました。

大切なお話がおありのようですので、私はこれにて失礼いたします。」一礼した後、日見の神は部屋から姿を消した。

青河龍王はその場で立ちすくんでいるかのようだ。

「あの方は?」ようやく口についた言葉はそれだけだった。

「あれは私の双子神で日見の神と申します。この星は二神によって成り立っております。あれはわたしの妹であり、妻であり、半身なのです。」

「さようでしたか。日美の神には、そのような方がいらしたのですね。それにしても、双子というのですから当たり前ですが、よく似ていらっしゃる。いや、あんなにも似ていらっしゃるのにも関わらず、お二神は相当に違われる。日美の神が日の神なら、あの方は月の神ですね。」

「ええ。」とだけ、日美の神は答えて、本題へと話をふった。

青河龍王は、地球にある日の本の国というところの北の方へと降り立った話を聞かせてくれた。

日の本はアマテラスを中心に纏まりつつある国であったが、本来は、国津神と此津神という地球の土着の神が存在していて、その神々と高天原から降りてきたアマテラス属との間で、なんらかのいざこざがあり、神の国譲りが行われたこと。その際、日の本の国を一に統べていた富士の大神がお隠れになり、今はそのご神気を土中の奥深くに眠らせてしまっていることなどを告げた。

それにより、日の本の国の本来の水脈、地脈、詰まりが生まれたこと。また、気脈、龍脈に歪みが起こり、一本の流れが途切れ途切れとなってしまったことを教えてくれた。

 

「人は、争いの中にあります。たぶんこの争いは、時を重ねて、悪化の一途を辿ることになるでしょう。」青河龍王は険しい表情で、遠くの星を見つめているかのようだった。

「日美殿、たぶん、そなたが人として生まれたとして、あの星に住まう人々が根底から変わることは難しかろう。そなたほどの方であったとしても・・・な。」

「青河殿、私は、自らにそのような力があるとは思ってはおりませぬ。何ができるということでなく、この目で見、自らで体験することによって、闇を知り、魔を見てくることだけでございます。」

「その心意気に私はいつも負けるのだ。そのやわらかな美しきお姿から、なぜそのような豪胆な決意をされることができるものか。とにもかくにも、私は、日美の神とそなたに連なる方々のために、出来ることを尽くそうぞ。」

「そのお言葉、大船に乗った心地にて安心して出立できます。私はともかく、わが星の民、また、日見のことも心にかけていただけたらと思います。」

「かしこまりました。」

宵も更け、青河龍王は客殿へと通され、しばしの休息をとられた。

暮れの空が明けたら、一条たち一行はとうとう地球へと向けて踏み出すのだ。